線虫、クラゲ、トカゲ、鳥、ネズミ、ヒトがみんなやっているけど、その仕組みはよくわかっていないもの。
それが「睡眠」です。
「睡眠」の間は、意識を失った状態になって外界の変化にすぐに対応できなくなってしまいます。
そんなリスクを冒してまで生物は眠るのです。
でもなんで眠るのか?
「睡眠」の正体については今の科学ではわかっていないことがたくさん!
筑波大学国際統合睡眠医学研究所(International Institute for Integrative Sleep medicine:IIIS)の柳沢正史機構長をはじめとした研究をご紹介します。
この記事の構成
- 今までわかっている睡眠のこと
- 睡眠を調べるための新しい実験方法の開発
- 「寝ても寝ても寝足りない」マウスを見つけた
今回は「寝ても寝ても寝足りない」Sleepyマウスの発見までのお話をご紹介します。
今までわかっている「睡眠」のこと
体内時計(概日リズム)による睡眠
人の覚醒のピークは、朝起きた直後ではなくて実は夜9時ごろなんです。
夜9時を過ぎると、心拍数、血圧が下がって副交感神経が優位にになることで眠くなる。
朝になって太陽を浴びると覚醒モードになって目が覚める。
これが体内時計(概日(がいにち)リズム)による睡眠です。
”睡眠恒常性”による「睡眠」
寝不足だと、昼間だと眠たくなることはありますよね。
これを専門家たちは「睡眠恒常性」と呼んでいます。
起きていると、だんだん「眠気」が溜まってきて眠ると「眠気」が解消されます。
これは私たちの日常生活で感じる「眠気」の感じですね。
だんだん蓄積していく「眠気」のことを「睡眠負債(すいみんふさい)」と呼びます。
ししおどしを想像してみるとわかりやすいかもしれません。
ししおどしの竹筒の中に「睡眠負債」という水が少しずつ溜まっていきます。
それがある程度まで溜まると、竹筒が傾いて「睡眠」状態になります。
「睡眠」すれば、睡眠負債の水が流れ出て元に戻ります。
これが睡眠恒常性による睡眠です。
今までの睡眠に関する研究方法
今まで睡眠に関する研究は「断眠実験(だんみんじっけん)」という方法で行われてきました。
断眠実験とはマウスを飼っているカゴ(ケージ)をトントンと叩いたり、マウスをなでたりして”強制的”に眠らせないようにする方法です。
”強制的に”眠らせない、つまり「睡眠負債」を貯めることでマウスの脳内にどんな物質が多くなっていくのか調べることで「眠気物質」を特定しようとたくさんの研究者が実験してきました。
しかし”強制的”に眠らせないというのはマウスにとっては強いストレスになります。
ネズミさんだって嫌なんだね...
ストレス状態で脳内の物質を調べてみても、それがストレスのせいなのか?睡眠できなかったからなのか?区別するのは難しいのです。
実際にこの方法でマウスの脳内で増えた物質を調べてみると、ストレスに関連したものがたくさんリストアップされました。
が、おそらくストレス物質と眠気との関係があまりはっきりとはわからなかったのではないかと思います。
ストレスと睡眠を”区別できない”というのが断眠実験の弱点ですね。
寝ても寝ても寝足りないマウスが見つかった!
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)は睡眠の「基礎研究」に特化した研究所です。
機構長の柳沢先生と船戸弘正客員教授らは、今までの「断眠実験」の弱点(マウスに強いストレスがかかってしまう)を補う実験方法を考えました。
- マウスに突然変異を起こす
- 睡眠異常のマウスを探す
- 遺伝子を解析する
- 睡眠に関わる遺伝子がわかる
- その遺伝子が眠気物質?!
ステップにわけられます
突然変異を起こして睡眠異常のマウスを探せ!
マウスに突然変異を起こして、約8000匹の突然変異マウスを作製しました。
その約8000匹のマウスを調べたところ、起きている時間が圧倒的に短いマウスが見つかりました。
1日1匹調べてたら、22年くらいかかっちゃう!!
すごい労力をかけて、調べたんだね。
マウスは夜行性で、暗くなると活発に動きます。
しかし見つけたマウスは、暗くなってもうとうとして眠っていました。
いくら寝ても睡眠への欲求が消えない「寝ても寝ても寝足りない」マウスを作ることができました!
船戸教授らはこのマウスを「Sleepy」と名付けて、どの遺伝子に変異が入っているのか調べることにしました。
遺伝子を解析して睡眠物質を特定せよ!
約8000匹を調べて見つけ出した「Sleepy」マウスの遺伝子を調べたところ、9番染色体上にあるSik3(遺伝子の名前は斜体で書きます)という遺伝子に変異がありました。
Sik3はいろんなタンパク質にリン酸基をつける(リン酸化)酵素SIK3(タンパク質の名前は大文字で書きます)をコードする遺伝子として以前からから知られていました。
睡眠との関係がわかったのは初めてのことです。
「寝ても寝ても寝足りない」マウスはこのSIK3の一部(53個のアミノ酸)が無くなっている形になっていました。
この一部が欠けたSIK3が睡眠と深い関係がある「可能性」があります。
船戸教授らはこのSIK3がどのように睡眠に関わるか、より詳しい睡眠のメカニズムを調べることにしました。
この後の話はまた次回。
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- 「睡眠負債」がたまることで脳内に増える物質(眠気物質)があるのではないかと考えられている
- IIISではストレスを与える断眠実験ではなくマウスに突然変異を起こす方法で「眠気物質」を探すことにした
- 約8000匹調べた結果「寝ても寝ても寝足りない」マウス(Sleepy)が見つかった
- Sleepyマウスにはリン酸化タンパク質SIK3を作る遺伝子Sik3に変異が起きていた
- SIK3が「眠気物質」である可能性が高い