先日2019年のノーベル医学生理学賞が発表されましたね。
ノーベル賞を受賞したのは、グレッグ・セメンザ、ピーター・ラトクリフ、ウィリアム・ケーリンの3氏です。
この3氏がどんな研究をしてノーベル賞に輝いたのかをご紹介する前に、ノーベル賞を受賞する人ってどんな経歴を持っているのか少しご紹介しようと思います。
どんな大学を卒業しているの?どんな環境で研究してきたの?
今はどんなことをしているの?を中心にご紹介していきます。
2019年ノーベル医学生理学賞の受賞理由と、私たちの生活にどう関わるのかはこちらの記事をご覧ください。
2019年のノーベル賞を受賞した研究の概要
ノーベル賞を受賞したのは、グレッグ・セメンザ、ピーター・ラトクリフ、ウィリアム・ケーリンの3氏です。
彼らの一連の研究は、グレッグ・セメンザが見つけた低酸素誘導因子(HIF:Hypoxia Inducible Factor)からスタートしています。
低酸素状態になると増加するHIFがどのような構造なのか?どのような役割を持っているのか?HIFの増加は何によって制御されているのか?
を3名の研究者(+日本人を含む多くの研究者)たちによって次々に明らかにされて行きます。
その結果、HIFは身体中のいろんな細胞で発現していて、様々な生理現象に関わることがわかってきました。
HIFのことを詳しく知ることで、その機能を阻害したり促進したりする薬を開発できる可能性が出てきます。
この「これから広がる可能性」に対して、ノーベル賞が授与されました。
ノーベル賞を受賞した3人ってどんな人?
グレッグ・セメンザ(Gregg L. Semenza)
1956年、ニューヨーク生まれ。ハーバード大学で生物学の学位を取得後、1984年にペンシルバニア大学の医学大学院でMD/PhDを取得する。
(ペンシルバニア大学はアメリカでジョンズ・ホプキンンス大、ハーバード大学とともに生物医学研究における重要な研究拠点。医科大学院は全米で重要な研究機関の一つでもありNIHから多額の研究費(全米第二位)がつけられている。)
ダラムのデューク大学で小児科の研修医としての経験を積む。
ジョンズ・ホプキンス大学(ボルチモア)でポスドクとして働き、1990年に研究室を立ち上げる。
250以上の研究論文や執筆出版しており、30000以上引用されている。
1999年にジョンズ・ホプキンス大学で教授となり、2003年からジョンズ・ホプキンス細胞工学研究所の循環器研究プログラムを指揮している。
主な研究テーマは下記の通りです。
酸素維持の分子メカニズム
虚血性循環器疾患の治療(遺伝子治療・幹細胞治療)
HIF-1のガンへの役割
虚血再灌流傷害からの心臓をどう守るか
米国遺伝医学大学(American College of Medical Genetics)の創設者で、2008年には米国医師会と全米科学アカデミーの一員に選出されています。
分子細胞生物学やガン研究関連の雑誌の編集者も務めており、Journal of Molecular Medicineの編集長でもあります。
また、数々の受賞歴を持っています。
2000年 E. メード・ジョンソン賞(小児科研究に対する賞)
2010年 ガードナー国際賞
2012年 スタンリー・K・コースメイヤー賞(小児臨床医学に対する賞)
2014年 ワイリー賞(生命医学に関する国際賞)
2016年 アルバート・ラスカー基礎医学研究賞(ノーベル賞受賞者が先行してこの賞を受賞している場合が多い(50%くらいの割合))
2018年 マスリー賞(アメリカの生命科学の賞)(2008年には山中伸弥先生も受賞している)
ピーター・ラトクリフ(Sir Peter J. Ratcliffe)
1954年にイギリスのランカシャーで生まれる。
1978年、ケンブリッジのゴンヴィル・アンド・キーズ・カレッジにて医学の勉強をする。
(全英で医学に高い評判のある大学で、DNAの構造を決定したフランシス・クリックも卒業している)
1987年にケンブリッジ大学でMDを取得。
腎・血圧の専門医としてオックスフォードで経験を積む。
1996年にオックスフォードで教授となり研究室を立ち上げる。
2002年に王立協会フェローに選出されている。
(アイザック・ニュートン、チャールズ・ダーウィン、アルベルト・アインシュタインをはじめとする合計8000人以上のフェローがいる)
2016年からフランシス・クリック研究所(ロンドン)の医学研究の指揮を取り、ラディックがん研究所のメンバーでもある。
名前にSirがついていますね。Sirはイギリスの栄誉称号の一つで、ナイト(またはバロネット)に当たられる称号です。あのビートルズのポール・マッカートニーもSirの称号を持っています。
ウィリアム・ケーリン(William G. Kaelin, Jr.)
1957年にニューヨークで生まれる。
ダラムのデューク大学でM.D.を取得。ジョンズ・ホプキンス大学とダナ・ファーバーがん研究所(ハーバード大学医学部の主要関連医療機関)にて内科とガン科の専門医としての経験を積む。
2002年にダナ・ファーバーがん研究所で研究室を開き、同年ハーバード大学医学部の教授となる。
1998年からハワード・ヒューズ医学研究所の研究者である。
特に、腫瘍形成を抑制するタンパク質の機能解明に関する研究を行なっています。
1978年以降、2019年のノーベル賞受賞までに13の賞を受賞しています。
ノーベル賞を受賞するにはコネが必要?
今年のノーベル賞を受賞した方々は、オックスフォード大学、ハーバード大学、ジョンズ・ホプキンズ大学など世界に名だたる有名大学の出身者です。
ノーベル賞受賞者の人数は、
オックスフォード 大学:50人以上
ハーバード大学:48人
ジョンズ・ホプキンズ大学:36人
(いずれも2019年現在)
ちなみに東京大学は11人、京都大学は8人となっていることからもすごさを実感できると思います。
なぜ、日本に比べて海外の名だたる大学のノーベル賞受賞者が多いのか?
私はその理由を三つ考えたのでご紹介します。
- 研究環境が整っている
- 選考するカロリンスカ研究所との繋がりがある
- 基礎研究をしっかりしているかどうか
研究環境が段違いに良い
一つは、名門なだけあって研究環境が整っていることが挙げられると思います。
研究活動の活発さ(Impact Factorの高い雑誌に掲載された論文数)の指標であるNature Indexを見てみると、2019年ハーバード大学は世界第2位になっています。
オックスフォード 大学(12位)やジョンズ・ホプキンズ大学(40位)は東京大学(9位)よりも順位が低くなっています。東京大学の方が研究が活発だということが言えてしまいます。
しかしながら、日本における研究者の労働環境はあまり良くなく大学の教授は大学運営の雑務に追われるし、若手研究者は研究費獲得に四苦八苦しています。
一度、海外に研究留学した人が日本に戻ってきたがらないのを良く聞きます。
その理由としては、①ポストがない ②労働環境が良くない なんだそうです。
特に子育てしながら研究をするのに適していないというのが、日本の研究現場の実情です。
カロリンスカ研究所との繋がりがある
実はカロリンスカ研究所と最も多く共同研究を行なっている大学は、ハーバード大学なんです。
一年に100以上の論文を共著で掲載されているのです。(2013年の記事によると)
また、イギリスとではオックスフォード 大学との共同研究が最も多く、ロンドン大学なんかとも共同研究しています。
ということで、ノーベル医学生理学賞を選考過程で知っている人を推薦するのは自然の流れかもしれません。
カロリンスカ研究所で名前が知られているというのは、ノーベル賞受賞に重要な役割を果たすのではないかと思います。
基礎研究をしっかりしているかどうか?
ノーベル医学生理学賞は実際に開発された薬や治療法に対して賞を授与することは極めて稀です。
(大村智先生のイベルメクチンなどもありますが...)
どちらかというと、治療法を見つけるきっかけとなる基礎研究に対して賞が贈られることが多いのです。
今年のノーベル医学生理学賞も、基礎研究に対して贈られました。
近年、日本のバイオ戦略は「基礎研究」を非常におろそかにしていて、臨床応用、実用化に重きを置くようになっています。
確かに、「基礎研究」はその重要さがわかるのに時間がかかるし、お金をかけたからといって成果が上がるわけでもありません。非常にコスパが悪いのです。
なので成果がわかりやすい、効果がいち早く確認できる応用研究にシフトしたくなる気持ちもわかります。
ただ「基礎研究」は「基礎」というだけあって、日本の科学の土台となるものです。
それをおろそかにしていては、将来の日本の科学研究は土台がなくなって不安定なものになってしまいます。
話がそれてしまいましたが、基礎研究をしっかりしているところにノーベル賞が授与されるのです。
将来のノーベル賞受賞者を輩出するためにも、「基礎研究」をしやすい環境に変わって行くと良いなと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。