2019年7月27日の毎日新聞の一面にこんな見出しが載っています。
「学会 会員減少7割 自然科学、研究者数は増加」
科学技術振興機構(JST)と毎日新聞が調査を行なった結果、こんな現状が浮き彫りになったそうです。
総務省の統計によると、2018年の国内の自然科学系の研究者数は約79万2000人。
14年前の2004年の約71万500人から、約1割増えています。
しかしながら、ここ10年で国内の主要学会の約70%が会員数が減っているということなのです。
どうしてこんなことが起きているのでしょうか?
この背景には大学・企業のコストの削減があるようです。
詳しくみてみましょう。
- 自然科学系の研究者は増加
- 国内主要学会の会員数が減っている
- 国内学会の運営が厳しい
- 学会に所属するメリットが減っている
減っているのでしょう?
学会に関する調査の仕方
科学技術振興機構は、
- エネルギー
- 環境
- 情報通信
- 材料
- ライフサイエンス・臨床医学
の5つの分野の主要45学会に対して、
2004年と2016年の個人と法人の会員数についてアンケート調査を2016年に行なった。
同じ45学会に対して、2004年と2018年の会員数を改めて調査して、41学会から回答を得た。
会員数の比較ができる38学会に関して分析を行なった結果がニュースになりました。
その結果、個人の会員(学生や大学の先生など)が増加したのは7学会でそのうち4学会は医学系でした。
増えた理由としては、学会に所属することや研修を受講することが「専門医資格」の取得条件になっているためだと考えられます。
残りの31学会は会員数が減少し、このうち、エネルギー・環境系の学会は30%も会員数が減っているものもありました。
法人会員(会社に所属する人など)も33学会で減少していて、増えていたのは「人工知能学会」と「統計学会」だけでした。
きちんと統計を勉強しておかなきゃって思った企業が増えたのかな?
なんだか、皮肉な結果だね。
学会の働きと会員減少によるダメージ
学会の役割とは...
- 学術集会(いわゆる学会)を開いて、研究者同士の交流を活発にする
- その分野の成果や課題を共有して、研究の役に立てる
- 学術誌を発行して、その分野の最新の成果を国内外に発信する
- 若い研究者が自分の存在をアピールする場
- 市民講座や小中高生向けのイベントを開催する
- 優れた研究業績を表彰する
→研究全体の発展を促す
こういった学会の活動を支えているのが、学会員が支払う学会費です。
学会員が減少するということは、学会費による収入も減少するということになります。
すると、学会の活動が思ったようにできなくなりその分野の研究が衰退していってしまうことに...
学術集会を開催するたびに赤字に
学会員が減少して収入が減っているのにも関わらず、学会運営の費用は上がっている。
その理由としては、
- 国立大学法人化
- 高校生が参加できるジュニアセッションの開催
- 市民講座、男女共同参画などの社会的事業
一番問題なのが、「国立大学法人化」です。
いままで、学術集会開催時に無料で使えた大学の施設利用に数百万円かかるようになってしまいました。
これは学術集会を開催するたびに支出が莫大になり、研究者同士の交流の場である集会が開催されにくくなってしまいます。
すると同じ分野の研究者たちが出会う場が失われ、その分野の衰退につながりかねません。
なぜ学会を退会する人が増えるの?
国からの運営交付金減少によって退会者数が増えている
学会を退会する人の多くは、大学職員だそうです。
大学職員が学会を退会する年齢のピークは2つあります。
1つ目は、定年退職に伴う退会
2つ目は、30代
この2つのピークができる原因は1つだけ。
それは、国からの研究に関するお金が減っているから。
国からの運営交付金が削減されているため、国立大学の人件費は削減を迫られて大学教員の数を増やすことができません。
30代の若手研究者が、大学などで安定した職を得るのが困難な現状があります。
このため期限付きで雇用される人(特任◯◯など)が、安定した職を求めて民間の企業へ就職してしまい退会するケースが多いそうです。
この問題の根本が解決しなければ、10年後も20年後も学会員数は減少し続け、日本の科学分野の地盤沈下は避けられません。
学会に所属するメリットがない
「ものづくり」を売りにしていた日本のメーカーは、企業の課題を情報技術で解決する「ソリューション・ビジネス」へとビジネスモデルを変化させている。
お客さんの抱える悩みを解決するために、情報技術と専門家によるサービスを通して支援すること。お客さんの抱える問題に対して1対1で対応して解決する。
大手電機メーカー・富士通のある研究者は、
サービスの研究開発は特定の顧客向けが多く、学会での発表や論文には向かない。
と話しているそうです。
世の中の変化によって、科学というよりはサービスにビジネスが移行してきているのですね。
サービスはサイエンスにならないので、学会で発表したり論文を出したりできません。
学会費を会社で出すのではなく、自分で負担しなければならない企業も多いのです。
学会費は年会費1万円程度と決して安くはありません。
メリットのない学会に1万円払うよりも、他のことに使いたいですよね。
学会も世の中の変化についていこう
学会とは別に、研究者同士の交流を増やそうと取り組みもあります。
生命科学などの進歩が早い分野では、若手や中堅の研究者を中心に学会とは別のネットワークを作って交流しています。
例えば、「生化学若い研究者の会」では毎年「夏の学校」を開催しており、学生やポスドクが参加してポスターセッション、研究交流会、シンポジウムなどを開催していて、運営も学生たちが行なっています。
生命科学の分野だけではなく、他の科学分野でも若手の研究者たちが「学会」以外でも活発に交流できる場を作って行けると日本の科学分野も地盤沈下を起こさなくて済むかもしれません。
学会も世の中の変化に合わせて、変わらなければならない時になっているのではないでしょうか。