いろんな種類のPCR
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このコロナ禍で爆発的に世の中に普及した言葉である「PCR」。

コロナの検査をする以外にもさまざまな使われ方をしているんです。

特に生命科学系の研究室では大きく分けて「クローニング用」と「検出・ジェのタイピング用」のPCRを行なっています。

この記事では、さまざまな種類のPCRについて簡単にご紹介していきます。

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そもそもPCRとは?

PCRとはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略。

詳しいPCRの基礎知識に関しては、こちらの記事をご覧ください。

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PCRの種類はどれくらいあるの?

現在の科学技術の進歩によって、いろんな種類のPCRが編み出されています。

これからも、種類は増え続けるかもしれませんが...

現在実験室でよく行われているPCRは以下のようなものがあります。

  • 普通のPCR(Conventional PCR)
  • リアルタイムPCR(Real-time PCR)
    リアルタイムに増幅曲線を描く。定量的なPCR。
  • 逆転写PCR(Reverse transcription PCR: RT-PCR)
    RNAをcDNAにしてから行うPCR。
  • ネステッドPCR(Nested PCR)
    一回PCRで増幅したものを、別のプライマーペアを使ってもう一度PCRをする方法。
  • マルチプレックスPCR(Multiplex PCR)
    複数種類のプライマーセットを用いて、複数の遺伝子領域に対するPCRを一本のチューブで行う方法。
  • ホットスタートPCR(Hot start PCR)
    あらかじめ抗体などで活性を阻害してあるDNAポリメラーゼを使って、増幅の特異性を高める方法。
  • 高速PCR(2-step PCR)
    アニーリングと伸長のステップを一つにすることで、迅速なPCRを行う方法。
  • コロニーPCR
    菌体を直接PCRにかけることで、目的のプラスミドが形質転換されているかどうかを確かめる方法。
  • インバースPCR
    部位特異的な変異を導入するために行われるPCR。

他にもゲノムDNAを解析するためのAFLP(amplified fragment length polymorphism)や迅速な遺伝子領域の増幅ができるLAMP法(loop-mediated isothermal amplification)などもあります。

 

それぞれのPCRについてどんな特徴があるのか?どんな時に使われるのかを見ていきましょう。

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Real-time PCRとは?

定量的PCR(qPCR)とも呼ばれる。

PCRでのDNA増幅量をリアルタイムでモニタリングして解析する方法。

遺伝子発現の定量をするときに行われることが多い。

次にご紹介するRT-PCRと混同しがちなので注意が必要です。

 

現在ではDNAの増幅量は蛍光物質を用いて、蛍光強度を測定する方法が一般的に用いられる。

電気泳動をする必要がなく、迅速性・定量性に優れている。

 

温度を変えるだけのサーマルサイクラーではできず、蛍光測定機能を持つサーマルサイクラー(リアルタイムPCR装置)が必要となる。

 

Real-time PCRについてもっと掘り下げた記事はこちらです。

RT-PCRとは?

一般的には逆転写(Reverse Transcription)PCRと呼ばれる。

RNAを対象としたPCR。

レトロウィルスの増殖に必要な逆転写酵素(reverse transcriptase)を使用します。

 

一般的なPCR法ではRNAを増幅することができません。

RNAを逆転写酵素を使ってcDNA(相補的DNA; complementary DNA)に変換することで、PCRができる形にします。

少量のRNAをcDNAにしてPCRすることで、検出可能な濃度まで増幅することができます。

わずかなmRNA転写産物や、少量のRNAの検出や解析が可能です。

 

一般的にはRNAの定量を目的に、上でご紹介したqPCR(定量的PCR)と組み合わせてRT-qPCRとして用いられることが多い。

RT-PCRについてもっと掘り下げた記事はこちらです。

ネステッドPCRとは?

ネステッドPCRのネステッド(nested)とは入れ子にしたという意味。

初めにPCRした領域よりもさらに内側の領域でPCRもう一度PCRを行う方法。

 

配列特異的なプライマー設計が難しい時に行われます。

一回めのPCRでプライマーが原因で増幅された非特異的な産物でも、2回めのPCRでも増幅される可能性は低い。

高い特異性があるのが特徴。

また、2段階でPCRするのでサンプル量が少ない場合でも、高い特異性を持ちながら十分量増やすことができます。

 

クローニング以外にも、わずかな量でも混入していたら困るもの(特にウィルス・雑菌)の検出などにも使われています。

マルチプレックスPCRとは?

マルチプレックスPCRのマルチプレックス(multiplex)とは多重のという意味があります。

1本のチューブに入ったDNAサンプルに対して、複数のプライマーセットを使って同時にPCRを行う方法。

 

DNA配列に対して、プライマーは約20塩基です。

設計したプライマーと全く同じ配列を持つ確率は、理論的には1/4の20乗(=10の11乗、1兆)となります。

ヒトのゲノム配列が約60億塩基対なので、全部のDNA配列に対して1つに決まるはずです(理論的には)。

そこで、複数種類のプライマーを入れてもPCRは働くのでは?という考えのもと行われているのがマルチプレックスPCRです。

 

試薬を節約したり、複数の標的を同時に検出できたり、ピペッティングエラーを抑えることができるメリットがあります。

しかし、

混合する全てのプライマーを標的に対して最適化(非特異的な結合をしないような配列)しなければない

増幅産物を電気泳動で確認することを考えて、産物を異なる長さにしなければならない

など、注意しなければならないことも多い。

 

種の識別(ヒトかどうかなど)を目的とした遺伝子マーカーの検出などにも使われる。

定量性はないが、定性的な検出をする時に時間を短縮を目的として行われることが多い。

ホットスタートPCRとは?

非特異的な増幅(ノンスペ)を抑えるために行われる。

PCRの非特異的な増幅の原因の一つに、PCR反応液調製中のDNAポリメラーゼのわずかな活性が挙げられます。

溶液を調製している間にDNAポリメラーゼが働かないように、一般的には氷上で調製します。

が、冷やすことでPCR反応を始めた時の温度上昇が緩やかになってしまい、目的外の生成物ができてしまうことがあります。

 

そのために開発されたのが、ホットスタートDNAポリメラーゼ。

ホットスタート修飾が施されているのが特徴です。

抗体(タンパク質による阻害)・化学修飾(化合物による阻害)・アプタマー(核酸による阻害)などで、酵素を修飾することで室温ではDNAポリメラーゼが鋳型DNAに結合・伸長できない。

DNAポリメラーゼが働く温度になると、修飾が外れて通常通り増幅することができるようになる。

 

室温でPCR反応液を調製することができるようになります。

2-step PCRとは?

PCRをより短時間で行うために使われる方法。

アニーリングする時の温度と伸長反応の温度(一般的には72℃)が数℃いないである場合、アニーリングと伸長反応を合わせて一つのステップにすることでPCRの時間を短縮することができます。

 

Taqポリメラーゼの場合、標的が500bp(塩基対)未満であれば2-step PCRができる可能性が高いです。

ジェノタイピングなどあまり時間をかけず・定量性が必要のない実験の場合に行われます。

コロニーPCRとは?

核酸を分離することなく、試料から直接標的DNAを増幅する方法。

特にクローニングの時に、目的のプラスミドベクターが形質転換されたかどうかを確認する時に使われます。

 

鋳型DNAの代わりに、コロニーを形成した菌体をPCR反応液に直接入れます。

特に、形質転換効率やライゲーション効率が低い場合など目的のプラスミドが得られにくい場合に先行して行う場合が多い。

通常クローニングで形質転換を確認する場合は、

コロニーを拾う→培養して増やす→プラスミドを精製する→PCRをかける

というステップを踏みます。

 

詳しいクローニングの手順に関してはこちらをご覧ください。

 

サンプルの数が数個(10個未満)だったらなんとか頑張ってやれなくもないのですが、形質転換効率が低い場合当たりを引くために何十個もサンプリングしなければならなくなります。

これってかなりめんどくさい!

そんな時に、コロニーPCRをすることでめんどくさいステップを踏まなくて良くなります。

コロニーPCRをして目的のベクターが入っていそうだったら、そのサンプルだけ、改めて培養してプラスミドを精製する...というステップを踏めば良いのです。

 

コロニーPCRについてはこちらの記事でさらに掘り下げています。

インバースPCRとは?

インバースPCRのインバース(inverse)とは「逆の」という意味。

何が「逆」なのかというと、プライマー設計の方向が逆になっています。

 

インバースPCRはゲノム上の未知の配列を調べるために、1988年にHoward Ochmanらが報告した方法です。

大きく分けて、制限酵素処理→ライゲーション→インバースPCR→シークエンスというステップで未知の配列を調べます。

 

エクソン領域の上流・下流のプロモーター・エンハンサー配列の同定などに使われています。

発展的な使い方として遺伝子変異の導入などにも使用されることがあります。

いろんな種類のPCR まとめ

ここにご紹介した以外にもさまざまなPCRの方法があります。

どんな用途で、どんな解析をしたいのか?で使うPCRの種類が変わってきます。

定性的なのか?定量的なのか?迅速に行いたいのか?特異性を高めたいのか?などなど...

この記事でご紹介しきれなかったものは、時間を見つけて個別に記事にしていきたいと思っています。

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