以前、「Excelのせいで遺伝子の名前を変更」というニュースが話題になっていました。
Excelの便利機能とも言える、数値自動的に変更してしまう機能。(例えば”1-1”と書くと”1月1日”もしくは”44025”などの数値になってしまいます)
この便利機能のせいで、「ヒトの遺伝子の略称を勝手に日付に変換されてしまう問題」が遺伝子解析をすると出てきていました。
2016年に発表された遺伝子を扱った3597件の論文のうち、704件はExcelの自動機能が原因とされるミスだとされ、発表された20%の論文が影響を受けていることを重く受け止めたからだとされています。
でも遺伝子名を完全に変えるわけではなくて、略称を変えるだけなんですけどね...
今回は、この”遺伝子”の話。
細胞生物学でよく見かける「ドミナントネガティブ」という言葉。きちんと説明できますか?
私は説明を求められた時に「きちんと説明できない!」言葉の一つだったので説明できるようにしておこうと思います。
ドミナントって何?
研究室に行くと、ルー大柴や小池都知事のように日常会話で英語の単語がちょいちょい入る人がいます。
使っている人は意味が分かって使っているんだとは思いますが、(私みたいに)英語が苦手な人にとっては思考停止。
何を言っているのかさっぱりわかりません。
で、研究室で当たり前のように使われている「ドミナント」ってどういう意味なんでしょう?
ドミナント(dominant)
優勢なもの支配的なもの。「優性変異」「劣性変異」の優性。(※2017年9月から日本遺伝学会は「顕性」「潜性」と表現を変更することを決定している)
フランス語に由来して、支配的、優勢な、高くそびえ立つという意味。(余談)
マーケティング用語のドミナント戦略とは小売店が特定の地域に集中して出店することで経営効率を高めるとともに地域内のシェアを拡大し、他社の優位に立つことを狙う戦略。
「ドミナントな変異」と言われたら「優性(顕性)変異」のことだと頭のなかで変換しましょう。
ドミナント(優勢なもの)がネガティブってどういうこと?
優勢なものがネガティブになるというのはどういうことなんでしょう?
ドミナントネガティブ
遺伝子の変異産物が正常産物に対してドミナント(優位)に働いて、正常産物の作用を阻害する(ネガティブな効果)を指す。
ある遺伝子の正常産物と変異産物が同時に存在すれば(片方の遺伝子対の変異など)正常な作用が残っている場合が多い。
VEGF受容体のように二量体を形成して機能する場合、不活性型の変異体が正常体と複合体を形成することにより正常体の作用を阻害する。
簡単にいうと、変異が入ったものの働きの方が強くてもともと持っていた機能を阻害してしまうこと。
元々遺伝子は2対一組(父、母から一本ずつ受け継いでいるので)なものです。そのどちらかに変異が入っていても、正常なものがあれば通常は大丈夫なはずです。
しかし多量体を作るタンパク質においては、変異型のモノマーが重合することによって本来のタンパク質の構造が変化し機能しなくなり、表現型として現れてきてしまう場合が多いのです。
ここで押さえておきたいのが、「ドミナントネガティブ」の場合は変異型のタンパク質も産生されるということ。
例に上がっているVEGFはホモ二量体を作って作用をする受容体チロシンキナーゼの仲間。ホモ二量体を作るのに、片方が似ていても変異が入っていると機能が変わってしまうのは想像がつきやすいのではないかと思います。
遺伝子の片アレルの変異で表現型が出てしまう、もう一つのケースが「ハプロ不全」です。
遺伝子対(アレル)の一本に変異が入っていて、もう一本が正常なのにも関わらず変異体が正常体の機能を阻害することなく、機能がどんどん落ちてしまうことを「ハプロ不全」と言います。(NotchやDeltaなど片側アレルだけだと発現が賄えない遺伝子は変異が入るとハプロ不全を起こします)
「ハプロ不全」はただ単に、産生されるタンパク質の量が少なくなってしまうために機能が低下してしまう現象のことです。
「ハプロ不全」では変異型のタンパク質が産生されないというのがポイント。
本来、両アレルから産生されて正常な量を保てるタンパク質が片側アレルに変異を持つために、産生できる量が減少してしまうために「ハプロ不全」が起きるのです。
「ドミナントネガティブ」って何? まとめ
「ドミナントネガティブって何?」と聞かれたら、すぐに答えられるように下にまとめておきましょう。
- 「優性(顕性)変異」のこと
- 多量体を作るタンパク質をコードする遺伝子で起こる
- 変異型の単量体と正常型の単量体が重合し、機能が阻害されてしまうことで起こる
時には「ドミネガ」なんて略されることもあります。