「凍結切片」と「パラフィン切片」の違い

生命科学の分野はとても幅広いので、微生物を扱う人、細胞を扱う人、動物を扱う人、PCで生命現象を解析する人など様々だと思います。

私は大学4年生の時はもっぱら微生物と戯れていて細胞なんて扱ったことはなかったし、大学院では動物と戯れる日々でした。

そんな動物と戯れている人たちにお届けする今回の記事は、『「凍結切片」と「パラフィン切片」の違い』です。

私は大学院時代も今までもずーっと「凍結切片」ばかり作製していたので、「パラフィン切片」の思い出は学生実験にまで遡ります。

学生時代にやった「パラフィン切片」の知識なんてほとんど無に等しいのです...

実験で「パラフィン切片」を作製する必要があったので改めて、「凍結切片」と「パラフィン切片」ってどのように違うのか勉強しなおしたのでまとめておきます。

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「凍結切片」と「パラフィン切片」の特徴

まずは、それぞれの切片にどのような特徴があるのか見てみましょう。

凍結切片

○ 短時間で操作ができる
○ 核酸シグナルの検出感度やタンパク質の抗原性の保持が比較的高い
× 形態の保持が難しい
× 検体中の水分量にバラつきがあると薄切が難しいことがある
× HE染色で細胞の境界が不明瞭

→免疫染色、in situハイブリダイゼーション、早期診断などに用いられる

パラフィン切片

○ 形態保持性に優れており、長期間室温でも保存が可能
○ 組織や胚を安定に保存できる
× 作製に長時間を要する
× 染色過程で有機溶媒を使用するので脂質が失われる
× 加温操作をするためタンパク質の抗原性が失われる

→組織染色によく用いられる

凍結切片とパラフィン切片の使い分け

凍結切片は短時間で作製できるので、臨床では早期診断には凍結切片が一般的に用いられます。

が、クライオスタットといった高価な機器が必要なので若手研究者のラボでは実施が難しく他の研究室に借りに行くなどが必要です。

また停電や震災など緊急事態が起きた際にサンプルがダメになってしまうことも考えられます。

パラフィン切片は組織染色が非常にキレイに染まるので病理解析などに主に用いられ、半永久的に保存が可能です。

しかしながら、タンパク質の抗原性が低下してしまうので免疫染色に用いるのは不向きになってしまいます。(全くできなくなるというわけではなく、パラフィン切片で抗体染色するプロトコルも確立されています)

 

すぐに像を見たい場合、免疫染色、in situハイブリダイゼーションを行う場合は凍結切片を作製するのがおすすめ。

キレイな像を見たい、ずっとサンプルを保存しておきたいという場合はパラフィン切片を作製するのが良いでしょう。

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「凍結切片」と「パラフィン切片」の作製方法

実際の作製方法の手順をざっと見てみましょう。ラボや扱う組織によってプロトコルは異なるかもしれません...

凍結切片の作製方法

  1. イソペンタンをビーカーなどに入れて液体窒素orドライアイスの上に置いて冷やしておく(液体窒素内だとイソペンタンが固まるので注意!)
  2. 組織を採取する
  3. 冷やしておいたイソペンタンにつけて急速凍結させる(凍結時にOCTに包埋するところが多い)
  4. イソペンタンを飛ばして、-80℃で保存する
  5. クライオスタットを用いて切片を作製し、スライドグラスにのせる

※低温やけどに注意して作業を行う。急速凍結させることで、組織内の氷の結晶が大きくなるのを防ぎます。

クライオスタットでの薄切は一般的には-20℃、8-10 μm厚で行いますが、扱う組織によって最適化が必要な場合もあります。

パラフィン切片の作製方法

  1. 組織を取り出す(固定液の浸透を均一にするためにある程度小さくしておく)
  2. 10%ホルマリンや4%PFAで24時間以上組織を固定する(固定が不十分だと組織を脱水させた時に脆くなる)
  3. 水道水などでホルムアルデヒドを除去する
  4. エタノールを用いて脱水(70%(一晩)→95%(30分×3回)→100%(30分×3回))キシレンを浸透させる
  5. 65℃で溶かしたパラフィンにつける
  6. パラフィンをブロックに型に流して冷却する
  7. ミクロトームで切片を作製し脱イオン水に浮遊させる
  8. スライドグラスにのせる

※パラフィン切片は作製するのに2~3日かかります。パラフィン切片は一般的に4-5 μm厚で作製されることが多いようです。

4番目のステップは脱水・置換を行っています。
組織は70-80%が水分なので疎水性のパラフィンは簡単に入ってきません。
組織内の水分をエタノールで置換することで、パラフィンの浸透を高めているのです。
これと同時に組織内の脂質も取り除き、パラフィンの融点降下を防ぐことができます。
エタノールはメタノールで代用可能です。メタノールの方が組織への浸透が早いので時間を短縮できますが、エタノールよりも毒性が高いので取り扱いに注意が必要です。

「凍結切片」と「パラフィン切片」の使い分け

最後にもう一度「凍結切片」と「パラフィン切片」の違いについてまとめておきましょう。

  • 「凍結切片」は手早く簡単に作製できるがキレイな病理像を得るのには向かない
  • 「パラフィン切片」はキレイな病理像を得ることができるがタンパク質の染色などには向かない
  • 「パラフィン切片」は作製に時間がかかる

 

凍結切片とパラフィン切片をどう使い分けるのか?先生に言われたから、先輩に言われたからそのままやっている人たちも多いと思います。(私もそうでした...)

が、「なにを見たいのか?」(目的)を明確にすることで「どんな手法を採用するのか?」が自然に決まってきます。

例えば、タンパク質の局在を主に見たいのであれば凍結切片を使った方が良いし、キレイな病理像を見たいのであればパラフィン切片を作製した方が良さそうです。

 

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