生命科学系の論文に出てくる「Rosa26領域」って何?
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実験用のマウスの遺伝子を組換えて表現系を観察する実験は、対象とする遺伝子がどうやって働いているのか?を理解するのにとても有効です。

生命科学系論文を読んでいると、トランスジェニックマウスを使った研究で授業で習わなかったような言葉がとサラッと書いてあったりしますよね。

今回は、そんなトランスジェニックマウスの研究で研究者たちの試行錯誤から見出された「Rosa26領域」について簡単のまとめていきます。

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「Rosa26領域」とは?

1991年にFriedrichとSorianoらによって同定されたゲノム領域。

FriedrichとSorianoらはマウスの胚胎幹細胞の遺伝子突然変異の研究で「Rosa26領域」を見出しました。

 

「Rosa26領域」は正式には"Gt(ROSA)26Sor"と表記され、マウス6号染色体上にある3つのエクソンで構成されるゲノム領域です。

「Rosa26領域」の特徴としては、

  • 遺伝子を挿入しやすい
  • 挿入した遺伝子の発現もよい
  • 他の内部遺伝子の発現や機能に影響を与えない
  • 細胞種、発生段階を問わず幅広く発現する

遺伝子を挿入したとしても安全性が高いことから「safe harbor(安全な港)」と呼ばれることもあります。
遺伝子改変マウス(トランスジェニック)を作製するのには、とても有効な領域なのです。

「トランスジェニックマウス」に関する記事はこちらをご覧ください

Sorianoらの研究とは?

Sorianoらは具体的にはどのようなことをしたのでしょう?

  1. ES細胞にレトロウィルスを使ってジーントラップベクター(Gen-Rosaβgeo)を感染させる
    (ジーントラップ法とは、プロモーターを持たない遺伝子をゲノムに挿入して遺伝子の発現パターンを確認する方法)
  2. 遺伝子導入されたES細胞をC57BL/6Jマウスの胚盤胞に入れ、マウスの胚を戻す
  3. 仔がキメラマウスになる
  4. キメラマウスと野生型のC57BL/6Jを掛け合わせて、遺伝子導入されたマウスが生まれてくる
  5. X-gal染色を行い、組織特異的な遺伝子の探索を行った

 

「Rosa26領域」にβ-gal遺伝子が挿入されると全身全ての細胞がX-gal陽性となることがわかった。

β-gal遺伝子を他の遺伝子(レポーター遺伝子)などに置換すると、移植用のコントロールに利用できると期待できる。

全身性に発現するので、さまざまな遺伝子の働きを探索することができるようになります。

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「Rosa26領域」を使ってトランスジェニック動物を作製する

では、実験の現場では「Rosa26領域」を使ってどのようにトランスジェニック動物を作っているのでしょうか?

従来の「Rosa26領域」を使った遺伝子ノックイン

まずは、「Rosa26領域」が発見された当初の遺伝子ノックイン方法を見てみましょう。

「Rosa26領域」は5'側(プロモーターの上流)と3'側にEcoRVの制限酵素サイトがあります。

エクソン1とエクソン2の間にXbaⅠの制限酵素サイトがあり、このXbaⅠサイトに標的遺伝子を挿入するのが一般的です(図2)。

配列は、スプライシングを促進するSA配列、標的遺伝子、薬剤選択遺伝子、転写終了カセットを並べたものを挿入します。

(「Rosa26領域」に配列を挿入する用のプラスミドは、Addgeneなどで入手可能です。)

この手法を使えば、全身どの細胞でも標的遺伝子を発現したマウスを作ることができるのです。

遺伝子を挿入したES細胞・iPS細胞を用いて遺伝子改変マウスを作製していきます。

例えば、標的遺伝子をGFP遺伝子にすれば生まれた時から全身がGFPで光るマウスが作製できます。

「Rosa26領域」を使ったコンディショナルノックインマウスの作製

従来のノックインマウス作製方法だと、挿入した遺伝子の発現時期や特定の細胞だけに発現させることができません。

そこで、細胞特異的(特定の細胞だけ)・時期特異的(特定の時期だけ)に発現させるために、Cre-loxPシステムと組み合わせられました。

方法としては、

「Rosa26領域」に薬剤耐性遺伝子+転写終了カセットをloxP配列で挟んだもの+標的遺伝子(のcDNA)を挿入したマウスを作製(通常この系統では、Rosa26領域の転写時には標的遺伝子を発現せずに転写が終了してしまいます)

部位特異的なプロモーターの下流にCreを持つマウスを準備

2系統のマウスを掛け合わせると...

部位特異的にCreが発現している細胞ではloxP配列に囲まれている薬剤耐性遺伝子+転写終了カセットが飛び、標的遺伝子が発現するようになる

 

上記のようにCre-loxPシステムを使えば、部位特異的に標的遺伝子を発現するマウスの作製が可能になります。

時期特異的にするには、単なるCreマウスではなくCreとエストロゲン受容体遺伝子を組み合わせたCre-ERマウスを使用することで遺伝子の発現時期を調整することができます。

Cre-loxPシステムの詳細についてはこちらをご覧ください。

外来性プロモーターを使った高発現ノックインマウスの作製

Cre-loxPシステムと合わせると、細胞特異的・時期特異的に発現させられますが、「Rosa26領域」のプロモーターはそこまで強くはないので状況によっては望んだ通りの発現量が得られない場合があります。

そこで「Rosa26領域」のプロモーターではなく、より強い外来性のプロモーターを導入されるようになりました。

プロモーターの種類はさまざまにありますが、今回はCAGプロモーターを導入する系を例に挙げていきます(図 4)。

「Rosa26領域」に挿入する配列は、従来のSA配列ではなくCAGのプロモーター配列に置き換え、あとは同じようにloxP配列で囲んだ転写終了カセットと標的遺伝子を導入したマウスを作製します。(この時に遺伝子発現領を調べる手法として、frt配列で囲んだIRES+レポーター遺伝子のカセットを挿入することもある)

 

Creマウスと掛け合わせれば、Creが発現している細胞でloxP配列で囲まれた転写終了カセットが飛び、強力なプロモーター配列の下流に標的遺伝子が挿入された遺伝子を発現させることが可能になります。

IRESについてはこちらの記事にまとめています。

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「Rosa26領域」とは まとめ

今回ご紹介した手法はかなりシンプルにしています。

研究者が挿入配列を色々工夫することで、さまざまなトランスジェニックマウスの作製が可能になります。

「Rosa26領域」について簡単にまとめておきましょう。

  • 「Rosa26領域」は遺伝子を改変するのの安定性から「save horbor」と言われる
  • Cre-loxPシステムと合わせて使うことで、部位特異的・時期特異的に標的遺伝子を発現するマウスの作製が可能になる
  • 「Rosa26領域」のプロモーターはそこまで強くないので、外来性のプロモーターを導入することもある

 

参考にしたサイト

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