生命科学系の実験で使うトランスジェニックマウスってなに?
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生命科学系の研究室にいると当たり前のように「トランスジェニックマウス」の話が出てきます。

大学の授業などで耳で聞いたことあっても、実際にはよくわからないまま研究室の話についていけないなーって思っている学生さんもいるのではないでしょうか?

私の身近にいる学生さんも研究室に来てトランスジェニックマウスの作製をテーマにされて、よくわからなくて途方に暮れていました。

研究室って何故かみんな勉強ができて、「これなんですか?」と聞くと「そんなのも知らないの?勉強不足!」と怒られてしまって中々質問しづらい雰囲気だったりします。(うちの研究室だけ?)

トランスジェニックマウスについて簡単にまとめましたので、研究の理解にお役立てください。

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「トランスジェニック」とは?

「トランスジェニック」は英語で書くと、”transgenic”ですね。

”trans”は「横切って」とか「向こうへ」、「別の状態にする」という意味があります。

”genic”は遺伝子のという意味なので合わせると、「遺伝子を変えた」と言ったニュアンスになって、「遺伝子組換え」という言葉でよく使われます。

「遺伝子組換え」したマウスのことを、「トランスジェニックマウス」と言います。

では、「遺伝子組換えした」とはどういうことなのでしょうか?

一般的には「外から別の遺伝子を人為的にゲノムに組み込む」ことを言います。導入された変異が次世代に受け継がれない(突然変異)の場合も「遺伝子組換え」に該当します。

「遺伝子組換え」された生物は、カタルヘナ法で拡散が規制されており、研究室の外に出してはいけない決まりになっています。

(※遺伝子組換え生物の中には、マウスだけではなく培養細胞・植物・微生物も含まれます。変異が受け継がれない突然変異体の場合はカタルヘナ法の対象にはなりません。)

要は、「遺伝子組換え」された生物が自然界に流出してた場合の影響がよくわかっていないので生態系を変えないためにも外に出してはいけないということです。

 

「外来の遺伝子をゲノムに組み込む」方法としては、ランダムな位置に組み込む方法と、挿入する場所を狙って組み込む方法があります。

「トランスジェニック」とは、一般的にランダムな位置に組み込む方法のことを指します。

挿入する場所を狙って遺伝子を組み込む場合は、「ジーンターゲッティング(遺伝子ターゲッティング)」と言われます。

現在の主流は「ジーンターゲッティング」にシフトしてきているようです。

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トランスジェニックマウスを作製する理由

何で外来性の遺伝子を入れたマウスを作るのか?大きく分けて3つの用途で使われます。

  1. 特定の遺伝子を破壊・過剰発現して遺伝子の機能を調べる
  2. 特定の組織・細胞に蛍光タンパク質などを発現させて、その組織や細胞の振る舞いや機能を調べる
  3. ヒトと同じ変異を入れて疾患のモデルにする

細胞や微生物ではなく、マウスでできることとしては標的遺伝子の生体内での振る舞いを見ることができる。

マウスはヒトと同じ哺乳類なので、疾患モデルを作製することで、どの時期から発症するのか、対象組織以外の組織での病態、行動解析などに用いることで、より詳細な病態研究をすることができるようになります。

マウスで病態を再現する場合は、ヒトのものとの差異も検討する必要があります。

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トランスジェニックマウスの作り方

トランスジェニックマウスを作る手法は大きく分けて2つに分けられます。

  1. 受精卵の前核にDNAを注入する
  2. レトロウィルスを使って外部遺伝子を挿入する

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

1. 受精卵の前核にDNAを注入する

1980年にJon Gardon, Frank Ruddleらが報告

外来性の遺伝子を挿入したプラスミドを、メスマウスから採取した受精卵の前核にマイクロインジェクション。

メスマウスの卵管に移植し、得られた仔マウスのDNAを解析したところ注入したプラスミドと相同なDNAが挿入されていることが確認できた。

このことから、受精卵の核に外来性の遺伝子を直接挿入することによりトランスジェニックマウスの作製が可能になることが示された。

注入するDNAはプロモーター、エンハンサー、イントロンやポリAシグナルを工夫することで効率よく外来遺伝子を効率よく発現させることができるようになります。

2. レトロウィルスを使って外部遺伝子を挿入する

1970年代にRudolf Jaenischらが初めてトランスジェニックマウスを作ったときに使われた手法[1][2]

レトロウィルスの、自分の遺伝子を感染した先の宿主のゲノムの中に挿入する、という性質を利用して外部遺伝子の挿入を試みました。

目的遺伝子を挿入したレンチウィルスを、受精卵に感染させて「トランスジェニックマウス」の作製されました。

Jaenischらが報告した当時は、挿入した外来性遺伝子の発現が低く、不均一でした。(マウスの外部遺伝子に対する防衛反応によるものだと考えられています)

 

この手法は、その後の応用性が期待されさまざまな研究者により技術の改良が行われました。

近年では、レトロウィルスの中でもレンチウィルスを使うと発現量が高くなることからレトロウィルスを使った外部遺伝子の挿入は再注目されています。

このウィルスを使う手法では、ウィルスに搭載できる遺伝子のサイズが限られているため大きな遺伝子を挿入することは難しいとされています。

生命科学系の実験で使うトランスジェニックマウスってなに? まとめ

「トランスジェニックマウス」について簡単にまとめます。

  • 「トランスジェニックマウス」はランダムに外来性遺伝子をゲノムに導入した「遺伝子組換えマウス」
  • 「遺伝子組換え体」はカタルヘナ法で自然界への拡散が規制されている
  • 「トランスジェニックマウス」を作製することで、ヒトの病態研究をすることができる
  • 受精卵に外来遺伝子を導入することで「トランスジェニックマウス」を作製することができる
  • 近年はゲノム上の特定の位置に遺伝子を挿入する「遺伝子ターゲッティング」が一般的になっている

 

ゲノム上の特定の位置に遺伝子を挿入する「遺伝子ターゲッティング」方法はこちらの記事にまとめています

 

参考にしたサイト

脳科学辞典ー「トランスジェニック動物」

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