培養細胞を扱うときに、最初にやるのではないかと言うのは増殖曲線を描くことではないでしょうか?
増殖曲線を描くというのは、実験のデザイン、培養細胞の扱い方、正確な実験操作・計数、毎日細胞に触れるなど、実験が上手くなるために必要な要素が凝縮されているのです。
今回は増殖曲線を描くために得られたデータから扱っている細胞の特徴を知ることができる、「増殖速度と倍加時間の求めかた」についてまとめて行きます。
培養細胞の増殖速度と倍加時間
(比)増殖速度(specific growth rate)や倍加時間(doubling time)は、培養細胞の特徴を示す指標として用いられます。
単に細胞の増殖曲線を描いただけでは何にも意味をなさないので、このような指標で数値化することで実験の意味がでて来るのです。
増殖速度とは?
一時間で細胞が何倍になるか?を示したもの。
単位は(h^(-1))で、通常「μ」を用いて表されます。
倍加時間とは?
細胞が分裂・増殖している時に、細胞数が2倍になるために要する時間。
対数増殖期には細胞それぞれで特有の倍加時間で増殖します。
培養細胞の増殖曲線に関してはこちらの記事をご覧ください。
増殖速度の計算方法
増殖速度は、1時間あたりに細胞が何倍に増えるか?その速さを示したものでした。
横軸に培養期間、縦軸に細胞の数をプロットした増殖曲線では、増殖速度は2点間の傾きに相当します。
通常は、細胞の増殖が直線的(一定)になる対数増殖期の増殖速度を計算します。
(2点間を取ればどのステージの増殖速度も計算は可能です。)
増殖速度をμ、t0の時の細胞数をN(t0)、tの時の細胞数をN(t)とすると...
図1で示したような計算式になります。
実験的には、たった2点のデータから推定すると言うのは誤差の影響を大きくしてしまうことになります。
誤差の影響を少なくして、真の値に近いものを算出するために複数のデータから計算することが一般的。
増殖速度や、倍加時間の計算でも複数のデータを使ってデータを算出し、最小二乗法を使って値を推定することになります。
最小二乗法については、後ほど簡単にまとめます。
倍加時間の計算方法
倍加時間は細胞数が2倍になるために要する時間でした。
図2で示した計算式を使えば倍加時間が計算できます。
増殖曲線を描いたデータから増殖速度と倍加時間を計算する
では、実際に実験で取ってきたデータを使って増殖速度と倍加時間を計算してみましょう。
まず、最初はエクセルなどの表計算ソフトを使って計算してみましょう。
※ 私が使用しているのはMacでExcelを入れていないので、もともとMacに入っている”Numbers"と言うソフトを使っています。
取得したデータを使って増殖速度と倍加時間を計算する
こちらの記事で培養曲線を描いたデータを使って計算していきましょう。
増殖曲線を描いた時、対数増殖期だと考えられるday2からday5のデータを使いました。
増殖速度と倍加時間を算出する計算式を表計算ソフトを使って手で計算しました。
ウェルの数を3にして実験したので、データが3つでてきます。
その平均を計算して、グラフに示している論文は結構あります。
最小二乗法を使って増殖速度と倍加時間を計算する
2点のデータだけで算出するとその誤差が大きくなるので、一般的には最小二乗法を使って値を推定します。
「最小二乗法」とは、誤差を伴うデータを処理するときに、その誤差の二乗の和を最小にすることで最も確からしい値を求める方法です。
身近な例で言うと、「検量線を引く」時に出てきます。
先ほどと同様に、day2〜day5までのデータを使って算出していきましょう。
こちらは表計算ソフトではなく、RStudioを使って算出しました。
手で計算した時と若干の違いがあることがわかりますね。
RStudioのインストールについてはこちらの記事をご覧ください
最小二乗法を使った回帰曲線の描きかたについてはこちらの記事をご覧ください
細胞の増殖速度と倍加時間を計算する まとめ
最後に、増殖速度と倍加時間の計算についてまとめていきましょう。
- 「増殖速度」は1時間あたりに細胞が何倍に増えるか?
- 「倍加時間」は細胞数が2倍になる時間
- 対数増殖期の2点のデータを使って、「増殖速度」や「倍加時間」を計算してデータにしている論文もある
(培養細胞の場合) - より最もらしい値を算出する時には最小二乗法を使う