培養細胞の増殖曲線を描く
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初めて扱う細胞がどんな振る舞いをするのか?

それを知るために最初にすることは、細胞の増殖曲線を描くことです。

扱う細胞が変わったり、適切な培養条件を検討したり、培養条件を変えたり(血清のロットチェックなど)するときに必ず描くのが「増殖曲線」です。

どうやって描くのか?描いた後どうやって評価するのか?などをまとめていきましょう。

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細胞の増え方

細胞はどうやって増えるのかご存知ですか?

細胞の増殖は「誘導期(lag phase)」、「対数増殖期(log phase)」、「定常期(stationary phase)」、「死滅期(death phase)」の4つのステージに分類できます。

この細胞の増殖の仕方の変化を描いたものが「増殖曲線」です。

それぞれのステージについて軽くまとめておきましょう。

「誘導期」とは

継代など新しい培養環境を開始すると、細胞はすぐ分裂を開始するわけではありません。

この、細胞が分裂を開始するまでの間を「誘導期」と呼びます。

細胞が新たな培養環境に適応するまでの期間だと考えておきましょう。

「対数増殖期」とは

細胞が分裂を始めて増殖が開始します。

最初はゆるやかに増殖を開始しますが、徐々に分裂スピードが上がっていき細胞の「倍加時間(doubling time)」・「世代時間」が一定になります。

縦軸を細胞数(対数)、横軸を培養時間にすると直線的な増加をするのがこの時期です。

一般的にこの時期に細胞を継代するのが良いとされています。

「定常期」とは

培養皿の面積、培地の栄養分には限界があるので分裂のスピードが落ちてきます。

新たに分裂する細胞と、死滅する細棒が平衡状態に達して見かけの生きている細胞の数は一定になります。

「定常期」に達する要因としては、培養皿上の過密、栄養分不足、有害代謝物の蓄積、pHの変化などがあげられます。

「死滅期」とは

「定常期」よりもさらに培養環境が悪化すると、死滅する細胞が生細胞を上回り分裂が停止していく。

 

細胞増殖の4つのステージは、培養細胞でも微生物(細菌)でも同じです。

今回は、培養細胞を例にとって「増殖曲線」を描いていきましょう。

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実験「培養細胞の増殖曲線」を描く

「増殖曲線」を描いて薬剤の効果の評価を行うのは、微生物でも培養細胞を扱う場合でも同じように行われる実験です。

微生物の場合は増殖スピードが早いので1日で増殖曲線を描けてしまうのですが、培養細胞の場合は(細胞の種類にもよりますが)1週間くらいかけてデータを取っていきます。

もう一つ微生物と培養細胞の大きな違いは、微生物の場合は培地の濁度(OD)を測定して評価することが多いのに対して、培養細胞の場合は細胞数を数えるというところです。

培養細胞を扱う場合は少し面倒くさいですが、きちんと扱う細胞について知るために「増殖曲線」を描けるようにしておきましょう。

(この記事では、接着細胞を想定して実験を解説しています)

「培養細胞の増殖曲線」の実験手順

やること自体は至ってシンプルです。

  1. 細胞を播種する(50%〜70%コンフルくらい)
  2. 培養開始から毎日(もしくは継時的)に細胞を回収して計数
  3. 計数結果をエクセルなどに入れてプロットを描く

    具体的な例を挙げてみましょう。

    実験で手を動かす前に決めておくこと

    ・初期播種密度

    ・使う培養皿のサイズ

    ・どれくらいの期間・頻度でサンプリングするか?

    上のことを踏まえて、こんな実験計画を立てました。

     

    「血球計算盤を用いた細胞の計数の仕方」についてはこちらの記事にまとめています。

     

    で、得られたデータ(仮想)はこちらになります。(各データは×10^4が省略されています)

    このデータを使って増殖曲線を描いていきましょう。

    増殖曲線をRStudioを使って描く

    エクセルなどを使って描くのでも良いのですが、私はRStudioを使って描くのが好きなので...

    先ほど示したデータを"csvファイル"にして、RStudioに読み込ませて、"ggplot2"というlibraryを使って描いてみました。

    Rを使ってグラフを描くと、上の様になります。

    「RStudioのインストールの仕方」についてはこちらで紹介しています。
    (今後この増殖曲線の描き方についても記事としてまとめる予定です)

     

    誘導期、対数増殖期、定常期、死滅期をグラフを元に分類してみましょう。

    想定実験では、day0〜day2が誘導期、day3〜day5までは対数増殖期、day6以降が定常期ではないかと考えられます。

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    「増殖曲線」を描いたあとどうする?

    「増殖曲線」は描けるようになりましたね。

    ただ単に増殖曲線を描いたのでは無意味ですよね。

    実験をするのは、「何らかの仮説を証明するため」。描いた「増殖曲線」から何が言えるか?が重要になってきます。

     

    例えば、

    以前使っていた血清と新しく購入した血清で細胞の増殖に違いがあるかどうか?

    薬剤を加えた時と加えないときで増殖に違いがあるかどうか?

    など、何かと何かを比較する必要が出てきます。

     

    「違い」を言うためには、グラフを描くだけでは「科学的」とは言えません。

    なんらかの「指標」を示す必要が出てきます。

    「何を知りたいか」で示す指標が変わってきますが、一般的には細胞の増殖速度について議論することが多いと思うので、「倍加時間(doubling time)」や「増殖速度(specific growth rate)」などを算出しておくと良いでしょう。

     

    描いた増殖曲線から「倍加時間と増殖速度の算出の仕方」はこちらの記事で紹介しています。

    おまけ:累積増殖曲線とは

    「増殖曲線」の種類にはいくつかありますが、最後に「累積増殖曲線(CPD: cumulative population doubling)」について触れておきましょう。

    一般的に細胞は、分裂・増殖を繰り返すと老化して増殖スピードが遅くなる傾向があります。

    しかし、幹細胞の分野では継代してもその増殖スピードが落ちないことを示すために「累積増殖曲線」が用いられることがあります。

    「累計増殖曲線」は横軸が継代回数(passage number)、縦軸を分裂回数(population doubling level:対数増殖期の分裂する能力)で示されます。

    ある一定の期間ごとに細胞を計数して細胞の増殖能に変化があるのかを見ることができるのです。

    培養細胞の増殖曲線を描く まとめ

    培養細胞の増殖曲線の描き方についてまとめておきましょう。

    • 培養細胞の増殖には、「誘導期」、「対数増殖期」、「定常期」、「死滅期」の4つのステージに分類される
    • 「増殖曲線」を描く実験自体はかなりシンプル
    • 「増殖曲線」を描いた後に「何を言いたいか?」がポイント
      「倍加時間」や「増殖速度」などを示すのが一般的
    • 幹細胞の分野では「累計増殖曲線」を描くことがある
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