【ことば解説】第一弾です。
最近、再生医療の界隈では「HLAハプロタイプ」という言葉が盛んに使われます。
「HLAハプロタイプ」ってちょっと難しそうな言葉ですよね。
科学の世界で使われる単語は横文字が多いので、頑張って慣れましょう!
では、「HLAハプロタイプ」の正体を解き明かしてみましょう。
HLA遺伝子とは?
HLAとは、ヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen)の略です。
「白血球の血液型」とも呼ばれていますが、一般的に知られている血液型A型、B型、AB型、O型とは比べ物にならないくらい種類が多いのです。
その数なんと約16,000種類!!
HLA研究のあらまし
人の臓器や組織をを別の人の体に移し植える、移植治療が1950年くらいから盛んに行われるようになりました。
別の人に臓器や組織を移植するとき、免疫反応(これは自分じゃない!やっつけろ!という司令)が起こって移植したモノは拒絶されてしまいます。
ただ別の人でも数100〜数1000人に一人、HLA遺伝子の型が同じ人の臓器や組織であれば免疫反応が起こらずに、移植が成功することがわかりました。
HLAは1954年に、臓器移植がうまくいくかどうかを決定する遺伝子として見つかったのです。
そのあとHLAに関する研究が盛んに行われました。
するとたくさんの働きがあることがわかってきました。
特に免疫に関わる働きが重要なので、HLAがどのように免疫に関わるかご紹介します。
HLAは免疫に関わる
そもそも「免疫」とは?
簡単に言うと、「”自分ではないもの(異物:ばい菌やウィルスなど)”を見分けてやっつける働き」です。
人の体には、”自分ではないもの”を倒すため抗体やキラーT細胞といった兵隊のような細胞がいます。
HLAは、この兵隊たちを集める働きがあることがわかりました。
HLAは細胞の表面にいて、異物が入ってきたという情報をいち早くキャッチします。
(家の前にいる警備員さんのようですね)
そして、その情報をT細胞という他の兵隊を起こす役割の細胞に知らせます。
T細胞によって起こされた他の抗体(B細胞)やキラーT細胞が、異物を倒すのです。
なんで16000種類もあるの?
ばい菌、ウィルス、花粉、ほこりなど...”自分ではないもの”、異物の種類はさまざまです。
たくさんの種類に対応するためには、HLAが1種類だけではかなり心細くありませんか?
(お城のような豪邸を警備員1人で守っているようなものです)
いろんな異物に対応できるように、ヒトでは1人最低12種類、全体で約16,000種類のHLAが存在するようになったと考えられています。
ちょっと専門的に
HLA遺伝子は第6染色体の短い腕のMHC遺伝子領域にあります。
(MHC:Major HIstocompatibility Complex; 主要組織適合性複合体)
タンパク質の構造や機能の違いによって、クラスⅠ、クラスⅡ、クラスⅢの遺伝子領域に分類されています。
クラスⅠには、HLA-A, -B, -Cなどが
クラスⅡには、HLA-DR, -DQ, DPなど、
クラスⅢにはサイトカインや熱ショックタンパク質などがコードされています。
人それぞれ持っている遺伝子の種類の組み合わせが違います。
クラスⅠ領域に存在するHLA-A座*を構成しているHLA遺伝子のうち、日本人で最も多い遺伝子型(アリル)**はA*24:02と言われています。
(お姉さんの遺伝子型の一番上)
抗原型はA24と表記します。
* 座、遺伝子座(locus):染色体上の遺伝子の位置(領域)のこと
** 遺伝子型、アリル(allele):対立遺伝子のこと。ヒトの場合は、お父さんとお母さんに由来する2つの遺伝子を持っています。このとき、同じ遺伝子座を占めるそれぞれの遺伝子を対立遺伝子と言います。
HLAハプロタイプとは遺伝子のセットのこと
それぞれのHLA遺伝子の場所は遺伝子上のとても近いところにあります。
そのため組み換えなどが起こらずその”セットのまま”親から子へ受け継がれるのです。
このHLA遺伝子”セット”のことをHLAハプロタイプと言います。(下の図でいうと細長く囲ったaとかbとか振ってある色のついた四角がハプロタイプを表しています)
どうやって親から子へ受け継がれるか、図で表すとこんな感じです。
この場合、お父さんとお母さんのハプロタイプの組み合わせは、aとc、aとd、bとc、bとdの4通り考えられます。
生まれてくる子どもはそのうちの1つの組み合わせのHLA型をも持つことになります。
例えば、ナナミちゃんはお父さんからaのハプロタイプ、お母さんからはcのハプロタイプを受け継いでいるということになります。
1組のHLAハプロタイプが同じドナーからの造血幹細胞移植
造血幹細胞移植は、血液のガン(白血病や悪性リンパ腫などの)に対する治療法の一つです。
造血幹細胞が豊富に含まれる骨髄液や臍帯血(へその緒の血液)などを、患者さんに移植してガンを直します。
水泳の池江璃花子選手が白血病を告白して、骨髄バンクへの注目が高まりましたよね。
それは骨髄バンクに登録していると造血幹細胞移植が可能になり、血液のガンの患者さんを救える可能性が高くなるからです。
幹細胞移植には、自分の細胞を移植する「自家移植」と他の人の細胞を移植する「同種移植」があります。
健康な人(ドナー)から患者さん(レシピエント)への同種移植の造血幹細胞移植はできる限り、HLAの型が一致したものを使用します。
しかし、完全に同じ人を探すのは難しいのです。
- HLA型が完全に同じ血縁者(双子など)
- 骨髄バンク、臍帯血(さいたいけつ)バンクを通じて完全に同じ人を探す
- 1組のHLAハプロタイプが同じ血縁者
(通称ハプロ移植)
最近は移植が早くできるので、ハプロ移植が積極的に採用されるようになってきました。
ハプロ移植では、完全に組織や臓器が生着しない生着不全やドナーの組織がレシピエントを拒否してしまう重症移植片対宿主病が発症してしまう(免疫拒絶反応の)可能性が高まります。
そのために、あらかじめ患者さんに抗胸腺細胞グロブリン(T細胞を減らすお薬)を投与したり、ドナーの造血幹細胞からT細胞を無くしたりして移植する手法が取られているのです。
他にも、移植した後に患者さんの体内のT細胞を除去してできる限りドナーの細胞が拒絶されないようにします。
このように免疫反応をできる限り抑えてしまうと、他のばい菌やウィルスに対しても免疫が効かなくなってしまう問題もある。
HLAホモ・ハプロタイプの細胞を用いた再生医療
最近はiPS細胞を使った、再生医療が注目を集めています。臨床実験も始まっています。
山中伸弥先生でおなじみの京都大学iPS細胞研究所(CiRA)では、免疫拒絶反応が起きにくい、2つのHLAハプロタイプが全く同じもの(ホモ・ハプロタイプ)のiPS細胞の作製を始めています。
ホモ・ハプロタイプのiPS細胞の種類が増えれば、iPS細胞によって将来救われる命も多くなるのではないでしょうか。
CiRAの動向に今後も注目です!