論文をネットで検索したときに、「購読料を支払わないと読めません」と表示されてげんなりしたことはありませんか?
大学や研究施設などでは一括で購読料が支払われていて、ある程度自由に閲覧することはできるのですが中には読めないこともあるんです。
自宅で論文を読みたいときに、読めないことって多いですよね。
最近は論文の「オープンアクセス化」が進んできていて、無料で読める論文も多くなってきています。
この記事では、「オープンアクセスの論文」についてまとめています。
オープンアクセスとは?
オープンアクセス(Open Access: OA)とは、
無料で閲覧できて、著者が設定した条件のもと再利用できる論文のこと。
今までの学術論文は購読料を読者が支払って読むものでした。
どのような経緯で「オープンアクセス化」が進んだのでしょうか?その背景を簡単にまとめておきましょう。
オープンアクセス化の背景
1990年代、大手の学術雑誌出版社による雑誌の購読料の高騰化が深刻になっていました。
購読量が高くなっていくということは、お金がない学生や科学後進国の人々が論文に触れる機会が減ってしまいます。
これに対抗して、学問、知識の共有の自由を訴える動きが2000年代から活発になってきました。
最初のオープンアクセス論文は2000年にBioMed Centralより刊行。
そんな中、2002年にはBudapest Open Access Initiative (BOAI) (2001年に開催された会議の内容を文書化したもの)が公開され、学術論文の「オープンアクセス化」の方向性が示されました。
BOAIによるオープンアクセスの定義は、
「公衆に開かれたインターネット上において無料で利用可能であり、閲覧、ダウンロード、コピー、配布、印刷、検索、論文フルテキストへのリンク、インデクシングのためのクローリング、ソフトウェアにデータとして取り込み、その他合法的目的のための利用が、インターネット自体へのアクセスと不可分の障壁以外の、財政的、法的また技術的障壁なしに、誰にでも許可されること」
とされていて、誰でも論文を再利用することができます。
その後、2004年にSpringer社がオープンアクセスジャーナルを発行し、大手の出版社にオープンアクセス化の流れを作りました。
BOAIの中では、著者が自ら公開するグリーンロードと、オープンアクセスの出版に投稿するゴールドロードの二つが提示されています。
現在、「オープンアクセス論文」は掲載先や論文の掲載料(Article Processing Charge: APC)の支払い者によって5種類に分けられます。
オープンアクセスの種類
オープンアクセス論文は以下にご紹介する4種類に分けられます。
・ゴールド
・グリーン
・ハイブリッド
・ブロンズ
主な助成機関から掲載を推奨されているのは、ゴールド又はグリーンです。
それぞれどのように違うか見ていきましょう。
ゴールドOA
オープンアクセスジャーナル(読者から購読量を受け取らない雑誌)に掲載された学術論文。
雑誌の管理費用として、「著者」がAPCを支払います。
APCはインパクトの高い雑誌ほど高くなる傾向があり、ELSEVIERのオープンアクセスジャーナルでは150〜6000米ドルと記載されています。
オープンアクセスジャーナルでは論文を永久に無料で読むことができます。
2021年6月現在16500誌のオープンアクセスジャーナルがあります。(DOAJ(Directory of Open Access Journal)にて確認できます)
ゴールドOAの記事はクリエイティブ・コモンズライセンスなどを介して、再利用するためにライセンスが公開されています。
論文を他の人に自由に利用してもらうために、著者が設定できる著作に関する諸条件。
著者は著作権を維持したまま、自由に著作物をネット上に流通させることができる。
グリーンOA
購読料を支払って読むタイプの雑誌に掲載されたもののうち、著者自身が並行して公開した学術論文。
雑誌によって公開のされ方がさまざまで、雑誌に掲載されたものと同一の版が一定期間空けたのち公開される場合や、査読済みの著者最終稿が公開される場合もあります。
著者の所属機関・学会のレポジトリに登録する場合はグリーンOAに該当する。
ResearchGateなどでよく見られる「Preprint」の論文はグリーンOAの場合が多い。
ハイブリッドOA
オープンアクセス論文が混ざっている購読雑誌に掲載された論文。
著者がオープンアクセスにするかどうかを選択し、読者が購読料を支払わなくても閲覧可能。
著者は今までの投稿スタイルを変えずに、オープンアクセス化できるというメリットがある。
APCが高騰しやすいというデメリットもある。
ブロンズOA
現在最も多いオープンアクセス論文。
出版社のWebサイトで無料で閲覧できるが、明確な許諾条件(再利用するための条件)が公開されていないので読者は再利用できない。
出版社の裁量により一時的に公開される場合もある。
(例:ノーベル賞受賞者の論文を一時的に公開するなど)
オープンアクセスのメリット・デメリット
「知識の共有の自由」という理念のもと、オープンアクセス化が進んでいます。
良いこともたくさんありますが、もちろんオープンアクセス化が進むことで良くないことも起こっています。
オープンアクセス化が進むことによるメリットとデメリットをまとめましょう。
オープンアクセス化のメリット
一番身近なメリットといえば、ネット上で検索すれば、購読料を支払っていない雑誌の論文でも簡単に読めるようになることではないでしょうか。
- 高い視認性
ウェブブラウザを立ち上げて、気になるキーワードで検索をしたら見てもらえる - 相応しい読者の獲得
一般的な購読雑誌だと、さまざまなトピックが一つの雑誌にまとまっているので「こういう研究に興味を持っている人に読んでほしい!」という人に届きにくい現状がありました。
オープンアクセス論文であれば、ウェブで気になるワードで検索して読んでくれることが多くなるのでその研究に興味がある人が読んでくれる可能性がかなり高くなります。 - 世界中の研究者を相手にできる
無料で読むことができるので、雑誌の購読料を支払えないような研究者でも、ウェブ上で探せば読むことができます。世界中にいる何百万人もの研究者が読むことができるようになります。
誰でも「無料で」「再利用可能な」論文を出版するということは、論文の品質もかなり高いものにしなければなりません。
2020年時点でELSEVIERから出版されている900万件の論文が査読つきの雑誌で出版されています。
査読つき論文についての詳細はこちらの記事をご覧ください。
また、ゴールドOAの場合は査読のプロセスを公開することや、再利用の条件を明示する必要があります。
オープンアクセス化のデメリット
デメリットについてもまとめていきましょう。
- 論文掲載料(APC)の高騰
インパクトファクターの高い論文誌になればなるほど、オープンアクセス論文にするためのAPCが高くなる傾向があります。有名な論文雑誌「Cell」のAPCは5900ドル(65万円)です。
論文掲載料が高くなると、お金がない研究者はなかなかオープンアクセス論文を出すことができなくなってしまいます。 - 捕食ジャーナル(Predatory Journal)の登場
いわゆる「ハゲタカジャーナル」と呼ばれるものです。十分な査読を行わずに論文を掲載し、掲載料を著者から徴収するような雑誌です。このような雑誌へ掲載料を支払ってしまうと、研究者のキャリアも傷ついてしまうので注意が必要です。
ハゲタカジャーナルかどうかを見分けるポイントは、有名な雑誌かどうか?、査読方法を明示しているか?ハゲタカジャーナルのリスト(有料)に名前がないかどうか?などです。
オープンアクセス論文の論文掲載料については、所属機関や助成団体が助成する場合が多い。
詳しくは、所属機関の図書館や助成団体に問い合わせすると情報を提供してもらえます。
オープンアクセス論文(OA)ってなに? まとめ
オープンアクセス論文についてまとめましょう。
- オープンアクセス論文は著者が論文掲載料(APC)を支払うことで、論文の無料閲覧、再利用をできるようにしたもの
- 再利用できるという点で「フリーアクセス論文」と異なる
- ゴールドOAまたはグリーンOAが推奨されている
- 世界中の「その研究に興味がある」研究者に読まれるというメリットがある
- 論文掲載料の高騰、ハゲタカジャーナルの登場などのデメリットもある
参考文献
慶應義塾大学メディアセンター オープンアクセス論文を探す・公開する
ELSEVIER open access information for journal authors
論文に種類について
ウェブ上に掲載される論文についている「DOI」ってなに?