PCR産物のDNA濃度を測定するとき、どうしていますか?
以前、一緒に研究をしていたフランスからの留学生(大学院生)がPCR産物をNanodropで測定しようとしてびっくりしたことがあります。
フランスからの留学生みたいにNanodropで測定しちゃう学生さんは意外と多いのかもしれません。
今回は、「なぜPCR産物はNanodropで測定してはいけないのか?」、「具体的ににどんな方法で定量したら良いのか?」の疑問を解決するべく『PCR産物の定量方法』についてまとめていきます。
DNAの定量方法の定番 !Nanodropの仕組みを理解しよう
まずは、Nanodropがどのように核酸の濃度を測定しているのかを知るのが重要です。
核酸の定量方法の定番、「吸光度法」についてはこちらにまとめています。
上の記事にも書いていますが、PCR産物は核酸の最大吸光波長である260 nmに吸光を持つ物質が複数含まれる混合物です。
このような混合物の吸光度は、それぞれの化合物の吸光度の総和として見積もられるので、実際の目的PCR産物の濃度よりも高く評価されてしまいます。
基本的なPCRの原理についてはこちらの記事をご覧ください。
正確にPCR産物の濃度を測定したい場合には、目的PCR産物と同じ260 nmの吸光を持つプライマーやdNTPを溶液から取り除く必要が出てきます。
現在最も一般的に行われているのが、PCR産物をアガロース電気泳動したのち「切り出し回収」する方法です。
(他にもDNAを分離する方法としてポリアクリルアミドゲル電気泳動もあります)
アガロースゲル電気泳動については、こちらの記事にまとめています。
最近ではシリカメンブレンを使った、スピンカラムで精製するキットも出てきています。
電気泳動せずに精製してくる場合には、あらかじめ目的のサイズになっているか?シングルバンドか?を確認してから行う必要があります。
PCR産物をアガロースゲルから切り出し回収する
アガロースゲルで電気泳動した後、PCR産物だけを取ってくる方法は大きく分けて2種類あります。
・エタノール沈殿法を用いて手で取ってくる
・カラムを使って取ってくる
昔はエタノール沈殿法で取っていたのですが、最近はシリカメンブレンのカラムを使って簡単に取ってこられるようになりました。
大まかな手順は以下の通りです。
- アガロース電気泳動をする
プライマー、プライマーダイマー、dNTPなどを取り除く
不純物の混入を防ぐためにも精製度の高いアガロースを使う
低融点アガロースゲルを用いる場合もある(エタノール沈殿法を参照) - ゲル内のバンドの位置を確認する
UV照射によりDNAダメージが生じやすくなるため、できるだけ手早く・短時間で確認する
位置確認用のレーンと切り出し回収用のレーンを作ると良い - ゲルから目的バンドを切り出す
DNA断片はウェルの下の方に沈むため、ウェルの上部など余計な部分はできるだけ取り除く(図1を参照) - 切り出したゲルの重さを測定する
予めチューブの重さを計っておき、ゲルを入れたチューブの重さを計る。
差分がゲルの重さとなる。 - DNAを抽出する
エタノール沈殿法とカラムを使う方法とに分けられる
エタノール沈殿法を用いて手で取ってくる
現在はカラムを使って取ってくる方が主流になっていますが、少し前はエタノール沈殿法で取ってくるのが当たり前に行われていました。
エタノール沈殿法を使って目的DNAを取ってくる方法を2つご紹介します。
低融点アガロースゲルを使って溶出する
低融点アガロースゲルを使ってゲルを作製する。
低融点アガロースでゲルを作製すると強度が弱く、ぐずぐずになるので2.5%以上の高い濃度でゲルを作製する。(長鎖DNAの抽出には不向き)
目的のバンドを切り出したのち、
- 切り出したゲルの5倍程度(重量比)のTEを加える
(例:ゲルの重さが200 mgだった場合、1 mLのTEを加える) - 65℃に温めたヒートブロックでゲルを溶かす
- 等量の水飽和フェノールを加えて攪拌する
(例:1.2 mLの水飽和フェノールを加える) - 12000 rpm、10分で遠心する
- 水層(一番上の層)を吸い取り、別のチューブに移す
- 水飽和フェノール(もしくは、フェノールクロロホルム)を等量加えて攪拌する
- 12000 rpm、5分で遠心する
- 水層(一番上の層)を吸い取り、別のチューブに移す
- 溶液の1/10量の3M酢酸ナトリウム溶液と2.5〜3倍量のエタノールを加える
- 常温・-20℃で静置
- 4℃、12000 rpm、10分で遠心する
- エタノールを除去する
- 70%エタノールを1 mL加える
- 4℃、12000 rpm、10分で遠心する
- 70%エタノールを除去
- 乾燥させ、適切なバッファーに溶かす
6〜8の手順はフェノ・クロ処理、9〜16の手順はエタノール沈殿法です。
低融点アガロースゲルを使うことで、低温度でも簡単にアガロースを溶かすことができてDNAを抽出できます。
フェノ・クロについてはこちらの記事をご覧ください。
エタ沈についてはこちらの記事をご覧ください。
フェノール凍結法を使って溶出する
低融点アガロースゲルは高価なこともあり、研究室に置いていないこともあります。
そんな時は、次に紹介する「フェノール凍結法」を使って溶出することが多いです。
通常のアガロースを使って電気泳動し目的バンドを切り出したのち、
- 0.5 mLチューブの底に18Gの注射針を使って穴を開ける
(遠心する時に外側になる位置もしくは底に穴を開ける) - 1.5 mLチューブの上に穴を開けた0.5 mLチューブをのせ、切り出したゲルを入れる
- 8000 rpm、10分遠心する
(細かくなったゲルが1.5 mLチューブに落ちる) - ゲルが落ちた1.5 mLチューブにゲルと等量のTE飽和フェノールを加える
- -80℃で30分凍結させる
- ゆっくり室温で融解する
- 12000 rpm、10分で遠心する
- 水層を吸い取り、別のチューブに移す
- フェノ・クロ処理
- エタノール沈殿
TEを含んだフェノールがアガロース内のDNAを抽出する働きがあることを利用しています。
シリカメンブレンカラムを使ってDNAを精製する
シリカメンブレンカラムは、メンブレンにDNAを吸着させて精製・分離を行います。
色々な会社でキット化されていて、簡単にDNAを精製できます。
よく使われている(であろう)キットをご紹介します。
プロメガ PCR Wizard SV Gel and PCR Clean-up System
QIAGEN QIAEX II gel extraction kit
QIAGEN QIA quick gel extraction kit
基本的には、それぞれのキットに付いている説明書の手順通りに精製を行います。
注意点としては、
グアニジン塩が入ったバッファーでゲルを溶解するので、エタノールでの洗浄が不十分だとコンタミしてしまう可能性が高いということ。
エタノールでこれでもか?ってくらい洗浄すると綺麗に溶出できたりします。
キットになっていると溶出・抽出の仕組みが理解しにくく、キットの説明書通りにやってもなかなか綺麗に溶出されないことがあります。
キットの仕組みを理解して、トラブルシューティングができるようにしておきましょう。
PCR産物を精製する〜アガロースゲルからの切り出し回収 まとめ
どうしてPCR産物をNanodropで測定してはいけないのか?
この記事のまとめを簡単にしておきましょう。
- Nanodropは「吸光度法」でDNAを測定する
- PCR産物は260 nmに吸光を持つものが複数混ざり合っている
- プライマーやdNTPは電気泳動で取り除くのが一般的
- PCR産物のみを精製するにはアガロースゲルから目的DNAのバンドを切り出して回収する
- 最近ではカラムで精製する方法が一般的になっている