生命科学系の実験で、細胞の中の細かい構造体を見たいときには蛍光プローブを使って観察することが一般的になっています。
蛍光プローブが発する蛍光を観察する方法として、「蛍光顕微鏡」を使う場合と「共焦点レーザー顕微鏡」を使う場合があります。
「蛍光顕微鏡」は細胞を観察するような倒立型位相差顕微鏡に付属していて、手軽に使える印象。
「共焦点レーザー顕微鏡」は大掛かりな顕微鏡をそのためだけに動かさなければならないので、なかなか手軽に使いにくいという印象です。
同じ「蛍光」を観察する顕微鏡なのに何がどう違うのでしょうか?
それぞれの仕組みから、何ができるのか?を簡単にまとめていきましょう。
蛍光顕微鏡とは?
そもそも蛍光って何?
顕微鏡の詳しい話をする前に、そもそも「蛍光」ってなんなのか?をまとめておきましょう。
蛍光分子はある波長の光を吸収し、より長波長の光を放出するもののことを差します。
蛍光発光の種類は「化学発光(ケミカルルミエッセンス)」と「電界発光(エレクトロルミエッセンス)」があります。
蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡では「電界発光」で、強い光を当てて発光を促しているのです。
蛍光物質が吸収する光の波長を「励起スペクトル」、放出する光の波長を「蛍光スペクトル」と呼び、その波長の差のことをストロークシフトと呼びます。
ストロークシフトの幅が大きい方がバックグラウンドの蛍光が下がるため、使いやすいとされています。
単に波長と言っていても、一つの決まった波長で励起されて、一つの決まった光を発すると言うわけではなく、波長にも幅があります。ストロークシフトの幅に関しても、最大励起波長と最大蛍光波長について考えるのが一般的です。
観察に蛍光を使うメリット
このように、ある波長の光を吸収してある波長の光を発する「蛍光」を細胞の観察に使うメリットとはなんなのでしょう?
一つは明視野で観察するよりもはるかに解像度が高くなるという点。
明視野観察では、光を照射してその透過光を観察します。光を通しにくい部分は暗く、通しやすい部分が明るく見えるのですが、それ以上細かいところは見られません。
「蛍光」を使えば、ある波長を吸収して発光すところ、別の光を吸収して発光するところを分けて観察できます。
細胞内の構造体を蛍光でラベルすることで、構造体別に観察ができるようになるのです。
もう一つは、複数の観察を同時に行えるようになるという点。
蛍光でラベルして、当てる波長の長さを変えることで観察できる部分を切り分けることができます。
ラベルする蛍光を変えることで、例えば核・細胞膜・細胞骨格を同時に観察できるようになるのも蛍光を使うメリットと言っても良いのではないでしょうか。
蛍光顕微鏡の仕組み
蛍光顕微鏡の仕組みについて簡単に見ていきましょう。
図2の矢印を順を追って見てみましょう。
- 光源から発せられた複数の波長を持つ光が励起フィルタに届く
- 励起フィルタを通して励起波長だけに絞られる
- ダイクロイックミラー(短波長を反射する鏡)で反射して対物レンズに入射、サンプル内で焦点が合う
- サンプルで励起波長が吸収され、蛍光波長が発せられる
- 蛍光フィルタを通して余分な波長の光が取り除かれる
蛍光顕微鏡は2種類のフィルタと一個の対物レンズを使うことで、サンプルの蛍光を検出することができます。
共焦点レーザー顕微鏡とは?
共焦点レーザー顕微鏡の特徴
共焦点レーザー顕微鏡は基本的には蛍光顕微鏡の上位互換と考えても良いと思います。
特徴としては、共焦点効果(オプティカルセクショニング)を利用して、焦点深度をできる限り小さくした光学的切片を得ることができます。(文字だけの説明では難しいですね...)
蛍光顕微鏡に比べて...
- バックグラウンドが低い、クリアな像が得られる
- 3次元画像データを取得できる(最近の蛍光顕微鏡ではこれができるものも出てきていますが)
- 多重染色の分離の調整がしやすい(漏れ込みを少なくできる)
などの特徴があげられます。
共焦点レーザー顕微鏡の仕組み
共焦点レーザー顕微鏡の仕組みを見てみましょう。蛍光顕微鏡とどのように違うのでしょうか?
顕微鏡会社によって光学系に若干の差はあるかもしれませんが、基本的な流れを見てみましょう。
共焦点「レーザー」顕微鏡なので、観察できるのは「レーザー」に限られます。
では、図3に示した光を順を追って見てみましょう。
- 点光源から発せられたレーザー光はダイクロイックミラーを透過して対物レンズに入射
サンプル上の焦点面に結像する - 焦点面に照射された励起波長を吸収して蛍光波長が発せられる
- 蛍光波長はダイクロイックミラーで反射されて検出器の方に光路が曲がる
- 検出器前のピンホールで焦点から外れて反射された蛍光波長がカットされる
- CCDカメラなどの検出器で蛍光シグナルが増強される
共焦点レーザー顕微鏡は、対物レンズとピンホール、CCDカメラを使って蛍光を観察することができるのです。
対物レンズとピンホールの位置が共役関係にあるので、焦点面以外から反射される蛍光波長がカットされ焦点面だけをクリアに観察することができるのです(光学的切片)。
光学的切片を厚さ方向に連続的に取得していくことで、三次元的な蛍光シグナルの分布を知ることが可能になります。
蛍光顕微鏡と共焦点レーザー顕微鏡の違い まとめ
最後に蛍光顕微鏡と共焦点レーザー顕微鏡の違いを簡単にまとめておきましょう。
- 蛍光とは励起波長を吸収して蛍光波長を発する性質
- 蛍光顕微鏡は2種類のフィルタを使うことで、手軽な光源で蛍光を検出することができる
- 共焦点レーザー顕微鏡はピンホールを使うことでクリアな画像が得られる
共焦点レーザー顕微鏡の上位互換とも言える顕微鏡として、マルチフォトン顕微鏡(2光子顕微鏡)などもあります。
機会があれば、こちらの顕微鏡についてもご紹介できたらと思っています。