生命科学系なら知っておきたい〜PCRの基礎知識
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コロナ禍で世の中に普及した言葉でもある「PCR」。

生命科学系の実験室では当たり前のようにやられていますよね。

この記事では、生命科学の実験で最低限知っておきたい「PCR」の基礎知識についてまとめていきます。

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PCRとは?

そもそも「PCR」とは、Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略。

DNAサンプルの特定領域を2の20乗(約100万)倍に増幅させる手法です。

※通常30〜35サイクルPCRを回しますが、2の30乗ではなく2の20乗程度しか増えません。その理由はこちらの記事にまとめています。

DNAポリメラーゼの働きを利用して温度変化のサイクルを経ることで連鎖的に増幅します。

 

PCRを行う目的としては、少量のサンプルから研究するのに十分な量までDNAを増やすことです。

PCRを使って、DNA配列を増やしたり(クローニング)、DNAの配列を決定したり(サンガー法)、遺伝子変異の導入を行ったりします。

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PCRの原理

PCRは大きく3つのステップに分かれています。

  1. 2本鎖DNAの解離(denaturation)
    94〜98℃の高温にすることで2本鎖のDNAが変性。
    塩基間の水素結合が外れるため、解離して1本鎖になる。
  2. プライマーの結合(annealing)
    50〜60℃にすることでプライマー(1本鎖の短いDNA断片)を相補配列部位に結合させる。
    急速に冷却することで、短いDNA断片のみが結合することができる。
  3. 酵素反応によるDNA合成(elongation)
    72℃ほどにすることでDNAポリメラーゼによってDNAが伸長する。

好熱菌(Thermus aquaticus)のポリメラーゼ(Taqポリメラーゼ)使うことで、①の90℃を超える高温でも安定してポリメラーゼ活性を維持することができるのです。

Taqポリメラーゼは、75〜80℃が至適温度で通常は72℃で反応を行います。

DNA複製反応にはMgイオンが必要なので、PCRバッファーには2 mMの塩化マグネシウムが含まれています。

 

Taqポリメラーゼは当初は正確性が比較的高く、反応速度が早いためPCRの標準的な酵素として用いられてきました。

Taqポリメラーゼの特徴として、複製されたDNAの3'末端はAが突出すること。

この突出することを利用してTAクローニングが行われています。

TAクローニングについては、こちらの記事にまとめています。

 

Taqポリメラーゼの欠点としては、ミスマッチを校正する(3'→5' エキソヌクレアーゼ活性)能力がなく、9000ヌクレオチドに1箇所の割合でミスしてしまうことです。

(現在ではより正確性が高く、反応速度が早い酵素が開発されています)

 

現在では上に示したようなPCRだけではなく、さまざまなPCRの種類があります。

PCRの種類については、こちらの記事にまとめています。

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PCRの歴史

では、どのようにこの画期的なPCRが生まれたのでしょう?

今から約50年前(1970年初頭)、合成した短いDNA断片とDNAポリメラーゼを使って鋳型から1本鎖のDNAを合成する方法が報告されています。

 

これを改良したのが、ノーベル賞も受賞したキャリー・マリス(Kary Mallis)。

 

1983年4月、マリスはカルフォルニアを彼女ジェニファーとドライブデート中...ふっと特定のDNA領域を増幅させるアイディアを思いつきました。

思いついてすぐに路肩に車を寄せて、紙を取り出してメモをしたそうです。

アイディアを思いついてから4年後の1987年、Methods in Enzymology に「Scientific Synthesis of DNA in vitro Polymerase-catalyzed Chain Reaction」と言うタイトルでPCRのアイディアを論文として発表しました。

このPCRの発明が評価され、1997年にPCR法の発明でノーベル化学賞を受賞しています。

一歩間違えたら大事故!大事故にならなかったからこそ、今のPCRの発展があるのかもしれません。

「PCRはドライブデート中に発明された」と言うのは生命科学系分野では常識なので覚えておきましょう。

(これを知らない人はモグリです)

 

当初、PCRのポリメラーゼ反応は大腸菌由来のポリメラーゼIを改変した断片を使用していました。

しかし大腸菌由来ということでDNAを解離する95〜98℃の高温に耐えられなくて変性してしまい、サイクルごとに酵素を加える必要があり、かなりめんどくさい実験でした。

その後改良が重ねられ、好熱菌のDNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼ)を使うことでより効率的にPCRが行えるようになりました。

さらにサーマルサイクラーがなかったので、温度の違う恒温槽を準備して時間を測りながら人の手で行っていたようですよ。

現在ではPCRの溶液を準備してサーマルサイクラーに入れて1時間〜2時間放っておくとPCRが完了するので、便利な世の中になったものです...

 

 

生命科学系なら知っておきたい〜PCRの基礎知識 まとめ

PCRの基礎知識をまとめます。

  • PCRはDNAポリメラーゼの働きを利用して連鎖的に標的のDNA領域を増幅できる
  • 大きく3つのステップに分かれている
  • キャリー・マリスは彼女とドライブデート中にPCRのアイディアを思いついた
  • 好熱菌由来のDNAポリメラーゼを使うことでPCRの技術が爆発的に進歩した

 

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